昨年読んだ本。

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◆SHOE DOG(フィル・ナイト)
「本は厚くすると売れる」と聞いたが、本当だろうか。

昨年読んだうち3作は、どれも書店の店頭に平積みされ、しかも厚かった。「蜜蜂と遠雷(687ページ)」「騎士団長殺し(1056ページ)」「SHOE DOG(560ページ)」。合計2303ページ。これら話題作は、厚みに反比例して読み終わる時間は短い。遅読の私でも、あっという間に読み終えてしまった。

12月初旬、「SHOE DOG」が、書店の店頭にひときわ高く山積みされていた。その光景を見て、私は「異常だ」と思った。

若かりし頃、ひどく高価だったNIKEのスニーカーを、何万円も出して買う人が周りに何人もいた。スニーカーというか、たかが「ズック靴」に大枚をはたくなんて、頭がどうにかしている。だから、NIKEのスニーカーは一度も買ったことがない。

「ナイキを創った男」と書かれた本の帯を眺め、創業者の自伝かと想像したが、買わずに通りすぎた。人の自慢話なんか、聞いても読んでもつまらないからだ。

と、普通ならそのまま忘れ去るところなのに、派手な本の装丁が頭に残り、結局、年末にAmazonに注文し読みはじめた。
読後、書店員がうず高く山積みにしたい気分がよく分かった。とにかく、面白い。
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これはNIKE創業から、上場までの話である。しかし、ビジネスの話は極端に少ない。マネジメントの秘訣もマーケティングの手法も書いてあると言えない。そしてまた、けっして成功譚ではなく、むしろ「ダメ男(バットフェイス)っぷり」をウィットに飛んだ語り口で綴った本なのだ。

まるで魚の棘をピンセットで抜き去ったように、自慢話はない。あるのは、部下の報告を無視し、瀬戸際の連続でいつも頭をかかえるダメっぷりだ。かといって卑屈でもない。筆者をとりまく人間模様が生き生きと描かれ、エピソード同様、歴史の知識と異国文化への畏怖が、本書をより深みのあるものにしている。

たとえば、事故で車イス生活を送る元陸上の著名な選手にシューズを売らせ、その両親に投資させるくだりは、まるでつくり話のようだ。会社が成功していなかったならきっとこんな微笑ましい話ではすまなかっただろう。また、会社の資金が回らず、大学で教えPwCで働く傍ら、四苦八苦しながらブルーリボン社を経営する様子に、いずれ強力なブランドを築く姿はない。

文章は短く、リズム感にあふれている。翻訳者がミュージシャンの伝記を手がける方であったことも、無縁ではないだろう。
こうして1963年が過ぎた。ハトにクイズを出し、ヴァリアントを洗車し、手紙を書いた。「親愛なるカーターへ、シャングリラからはもう出たかい?僕は今会計士をしているけど、毎日がつまらなくて、自分の頭を打ち抜きたくなるよ」
こんな一節は、まるで村上春樹の小説かと勘違いするほどだ。

NIKEが日本メーカー(現アシックス)の販売代理店として起業したことにも驚かされる。アシックスと縁を切った後、倒産の瀬戸際を救ったのも、日本の商社だったという。

厚い本の中で、日本や日本人との関係が420ページまで語られている。元日銀総裁として記憶に残る速水優氏は、日商岩井CEO時代にナイキ恩人だったとして登場する。
その時に私が話すのは、1962年に見た荒廃した日本だ。ガレキや廃墟からハヤミ氏やイトー、スメラギら賢い人間が生まれたのだ。
1962年当時、東京が廃墟だったというのは、かなり言いすぎだと思うのだが、本の出来からすれば瑣末なことだ。アメリカでもベストセラーとなった本だが、この本は、自信を失ったいまの日本人に向けて綴られている気がした。

会社を知るとその製品を買いたくなるのもまた道理。読み終えた翌週、ABCマートでNIKEのスニーカーを買ってしまった。

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Commented by うさじい@山形 at 2018-01-08 21:26 x
おばんです。正月は貴殿と飲めてよかった。皆年相応の頭になっていたし。さて、相変わらず本をよく読んでいらっしゃる。自慢じゃないけど去年まともに本は読んでいないことに気が付いた。いかんなぁ。ラジオブロスと気象庁物語の二冊を読み始めたものの年を越したにもかかわらず、いまだ読み終わっていない。ラジオブロスにいたっては、この分厚い本は来年までかかりそうである。
Commented by bunkasaba at 2018-01-08 22:49
>うさじいさん
みんな変わらずで何よりでしたが、昔の記憶は頭髪同様、薄れていきますね。目のかすみと腰の痛みであまり多く読めませんでしたが、通勤の3時間のうち、少なくとも毎日1時間半は本を読めそうです。スマホが目に悪いので、本を読むか瞑想(睡眠)するしかないのですけどもね。
by bunkasaba | 2018-01-08 18:22 | | Trackback | Comments(2)